加藤典洋
もうすぐやってくる尊皇攘夷思想のために
四六上製 328頁 本体予価2600円 ISBN978-4-86488-131-9 C0095
9月下旬刊
2018年、明治150年――そして新元号施行、東京オリンピック。新時代の予感と政治経済の後退期のはざまで今、考えるべきこととは何か。戦後論の第一人者が、失われた革命思想の可能性と未来像を探る批評集。
●あとがき
● より
詳しくは、中身を読んでもらうのが一番だが、なぜ徳川の身分制度を内側から崩壊させ、体制を転換する思想が、徳川幕府の時代の末期、いわゆる「幕末」期にこの国に生まれるのか。そして人びとを広く動かす「革命思想」として機能するのか。そのことの解明が明治以後、いっさいなされることがなかった。(……)それが現在私たちの目にしている狭隘な排外思想とすらいえないヘイトクライム、また「うつろな」保守的国家主義思想の跳梁だろう。およそこのような見取り図が、私を動かしている直観である。
一八五〇年代の幕末期、一九三〇年代の昭和前期、二〇一〇年代の現在の「後退期」が、それぞれ八〇年を隔てて見えない糸で繋がっている。そんな惑星直列の図が、この見取り図の骨格である。
こう書くと、『敗戦後論』の加藤が今度は尊皇攘夷思想を顕彰するようになったかと思われるかもしれないが、ある意味では、その通りである。ある意味では、というのは、幕末期に尊皇思想と攘夷思想が合体することでかたちをもった「尊皇+攘夷」思想というものの「二層構造」性にいま、私の関心は向かうからである。
◆目次
「複雑さを厭わずに考える」こと――序に代えて
1 二一世紀日本の歴史感覚
もうすぐやってくる尊皇攘夷思想のために――丸山眞男と二一世紀の日本
三〇〇年のものさし――もうすぐやってくる尊皇攘夷思想のために2
2 スローラーナーの呼吸法
ヒト、人と会う――鶴見俊輔と私
書くことと生きること
微力について――水俣病と私
3 「破れ目」のなかで
矛盾と明るさ――文学、このわけのわからないもの
戦争体験と「破れ目」――ヤスパースと日本の平和思想のあいだ
ゾーエーと抵抗――何が終わらず/何が始まらないか
「称名」と応答――素人の感想
4 明治一五〇年の先へ
上野の想像力
八月の二人の天皇
明治一五〇年と「教育勅語」
あとがき
【著者紹介】(かとう・のりひろ)
48年、山形生まれ。文芸評論家、早稲田大学名誉教授。著作に『アメリカの影』(講談社文芸文庫)、『敗戦後論』(ちくま学芸文庫)、『戦後入門』(ちくま新書)、『敗者の想像力』(集英社新書)ほか多数。