昭和という時代を体現した濃密な時間と男と女
久世光彦 エッセイ集
嘘つき鳥
あとがき(にかえて):
久世朋子
年をとると、嘘をつくぐらいのことで疲れる。―もちろん嘘の相手は、女である。
昭和29年、東京。二度の受験に失敗し、予備校生だったぼくは十歳年上の人妻・未知子さんと恋におちた。未知子さんは薄荷とミルクの交じった匂いがして、ぼくはそれを人の奥さんの匂いだと思った――。
2006年の急死まで、ドラマ「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」をはじめ、「時代の匂い」にこだわった作品を作りつづけた久世光彦。その彼の単行本未収録エッセイから42篇を厳選。幼い頃〈姐や〉の襟足にかいだ安香水、現在の美輪明宏の「毛皮のマリー」流れる銀座に残る焦土、市川雷蔵が「陸軍中野学校」でみせた死と虚無の香り。戦後のアセチレン灯と女の湿った肌の匂いの影に、生前誰にも見せることのなかった作家の隠された顔があらわれる。
(青年期以降の思い出を中心に1990代以降の作品から)
■目次より
銀座今昔物語
民やのカステラ
青空と羞恥
―リンゴの唄―
露地の女。
笑う弁財天
匂いの国に生まれて
あきらめない人
…森繁久彌といかりや長介
私の不良少女たち
【久世光彦 くぜ・てるひこ
】
1935年、杉並区阿佐ヶ谷生まれ。演出家・プロデューサーとして「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」「ムー」など多くのドラマを手がける。作家としては、1987年に『昭和幻燈館』でデビュー。1994年『一九三四年冬―乱歩』で山本周五郎賞、1997年『聖なる春』で芸術選奨文部大臣賞、2001年『瀟々館日録』で泉鏡花賞を受賞。2006年3月没。
四六上製 216頁
本体 2,500円(予価)
ISBN978-4-86488-
056-5 C0095
装幀:緒方修一
【好評既刊情報
】
久世光彦 単行本未収録エッセイ集第1弾、
歳月なんてものは 【2刷】
主に、少年時代の思い出と仕事を通して知り合った芸能の人たちについて