■文学は、権力を持たぬ。権力にならぬ。そこに文学の貴重さがある。
秋山 駿
沈黙を聴く
(長谷川郁夫 編)
978-4-86488066-4 C0095
2015年3月25日頃刊
四六上製 368頁 本体3700円
思弁的な表現を避け読者や作者に寄り添った文芸批評家の晩年の、老いてこそ滋味あふれる単行本未収録エッセイ集。
【本文より
】
わたしは、「私」とは何か、という問題を追い続けた。したがって、一人の人間としてこう思う、というのが、思考の基本だった。好んで読んだ古代の賢人の言葉も、一人の人間として考える、あるいは、国家の一市民として考える、というのが思考の基本だった。
■戦争によって潰えた 「物語の水脈」は何処へ?
中井英夫
ハネギウス一世の生活と意見
978-4-86488-067-1 C0095
2015年3月25日頃刊
四六上製 368頁 本体4000円
異次元界からの便りを思わせる“譚”(ものがたり)は、いま地上に乏しい。時代の現実を裏返す反世界の小説家が追い求めた“博物学的精神”の行方とは。『虚無への供物』から半世紀を経て黒鳥座XIの彼方より甦った、全集未収録の随筆・評論集。
晩年を中心にその人生を振り返るエッセイ と
中井流20世紀日本幻想文学論(太平洋戦争を画期とし、夢野久作・小栗虫太郎・久生十蘭ら戦前作家の系譜を、日影丈吉・赤江瀑・倉橋由美子・澁澤龍彦などの戦後作品の中に論じる)
【本文より
】
私にとってひどく無気味なのは、その八月十五日とやらに、本当に戦争は終わったのか、という疑いがいまなお胸に兆すことで、戦後の三十年という長い年月は、眠り続けている私の夢にすぎない、という思いからも、また逃れられずにいる。(……)死に損ないの私が、間際まで日本の敗戦を願い、軍国主義の消滅だけを念じていたことを秘かに“敵”が知って、眠っている間に大仕掛けなトリックで“贋の戦後”を創り出してみせたというならば―。