加賀乙彦、卒寿記念出版
加賀乙彦自選短編小説集
妻の死四六上製 370頁 本体3,200円(予価)
ISBN978-4-86488-170-8 C0093
齢九十。
暗い暗い穴の底へ。
芥川賞候補作「くさびら譚」、ドストエフスキー、トルストイ、カフカ、プルーストの軌跡をめぐる旅、そして、単行本未収録の「熊」「妻の死」など全12編
これまでの作家人生で、私は自分の幼少年時代を思い起こすことがなかった、そして自分の両親や兄弟の思い出を小説に書きこむこともなかった。ところが、本当のことに幼年時代は宝の山であり、だからこそ父母、親戚、友達の存在から、私はわざと自分を遠ざけていたのだ。そして私は小説のノートを夢中になって書きすすめた。
――「あとがき」より加賀乙彦 かが おとひこ
小説家、精神科医。1929年、東京府東京市芝区三田(現東京都港区三田)に生まれ、淀橋区西大久保(現新宿区歌舞伎町)で育つ。43年、名古屋陸軍幼年学校入学、敗戦により45年9月、東京府立第六中学校復学、11月、旧制都立高等学校理科編入学、49年3月、卒業、4月、東京大学医学部入学、53年3月、卒業。東大精神科、同脳研究所、東京拘置所の医務技官を経て五七年、精神医学および犯罪学研究のためフランス留学。船中で私費留学生だった辻邦生と出会う。60年、帰国。64年、立原正秋主宰の同人雑誌「犀」に、また辻邦生を介して同人雑誌「文芸首都」にも参加した。東京大学附属病院精神科助手を経て65年、東京医科歯科大学犯罪心理学研究室助教授。68年、長篇『フランドルの冬』で芸術選奨文部大臣新人賞受賞。また同年、短篇「くさびら譚」で芥川賞候補。69年より上智大学文学部心理学科教授。73年、『帰らざる夏』で谷崎潤一郎賞受賞。79年、上智大学をやめ文筆に専念、『宣告』で日本文学大賞受賞。86年、『湿原』で大佛次郎賞受賞。87年、カトリックの洗礼を受ける。98年、『永遠の都』で芸術選奨文部大臣賞受賞。99年、作家としての業績で日本芸術院賞受賞、2000年、日本芸術院会員、05年、旭日中綬章受章、11年、文化功労者。12年、『雲の都』全五巻で毎日出版文化賞特別賞受賞。ほか著書に『加賀乙彦自伝』(2013)、『殉教者』(2016)、『ある若き死刑囚の生涯』(2019)など多数。