柴崎信三絵画の運命 美しきもの見し人は四六上製 予256頁 本体2800円+税
ISBN978-4-86488-194-4
3月下旬刊
装画はフォルテゥーニ「日本式広間にいる画家の子供まち」(1874年)です(本文エピローグで言及)。
政治や経済、そして戦争における権謀に巻き込まれて国境を越え、流転を重ねた傑作がある。その、カンバスの裏に隠された履歴を追う。
モデル、モチーフ、時代背景、保護、競売のシステム、メディアの批評など、「美」を取り巻く人々の眼差しがつくった「歴史」。
傑作がたどった流転の歴史
■プロローグより
■ 人生が時代の「制度」と無縁ではあり得ないように、「美」もまた「制度」のなかで観者に発見され、呼び出される。そして「制度」を超えた新たな命を吹き込まれる。そこには埋もれた「美」の観者による再発見があり、政治や経済など時の力による簒奪や投機がある。また、「美」に憑依された人々による蒐集、独占がある。模作、贋作、窃盗といった場外乱闘でさえ、水源をたどれば、「美」を見、憑かれた人が探り当てたユートピアの陰画と読めなくもない。
以下、「美」に憑かれた人々をめぐる物語をたどってゆきたい
■目次
■プロローグ――美はしきもの見し人は
1 〈流転〉の物語
皇帝溥儀の追放と禁断の名画の帰還――顧閎中『韓煕載夜宴図』
蘇る少年――D・ティントレット『伊東マンショの肖像』
白樺派とバブル期を結ぶ神話――ゴッホ『医師ガシェの肖像』と『ひまわり』
江戸の出版統制と蒐集家フリーア――喜多川歌麿の雪月花
世紀転換期とナチス占領下のウィーン――クリムト『アデーレ・ブロッホ=バウワーの肖像Ⅰ』
富士という「心」――横山大観『龍躍る』
亡命した聖画――パブロ・ピカソ『ゲルニカ』
洲之内コレクションと戦争の影――海老原喜之助『ポアソニエール』
2 〈人生〉の物語
宮廷画家が欲した徴――ベラスケス『ラス・メニーナス』
二十一世紀の御真影――野田弘志「平成の天皇と皇后の肖像」
三島由紀夫が愛した戦後の迷宮――J・A・ヴァトー『シテール島への船出』
トランプのアメリカを捉えた眼差し――テオドール・シャセリオー『アレクシ・ド・トクヴィル』
画家の逃走劇――カラヴァッジョ『聖マタイの召命』
漱石が讃えた不遇の夭折画家――青木繁『わだつみのいろこの宮』
晩節に蘇った記憶――久隅守景『夕顔棚納涼図屛風』
対岸の青春が映した一葉の哀しみ――鏑木清方『築地明石町』
エピローグ――諜報戦と絵画
■著者紹介
■柴崎信三 しばさき しんぞう
ジャーナリスト。1946年、東京生まれ。1969年、慶応義塾大学法学部政治学科卒業、日本経済新聞社入社。社会部記者、同部次長、文化部長等を経て編集委員兼論説委員。2007年の退社後は獨協大学、白百合女子大学、文化学園大学でメディア、文化、情報社会等を教える。著書に『魯迅の日本 漱石のイギリス』『絵筆のナショナリズム フジタと大観の〈戦争〉』『パトリ〈祖国〉の方へ 一九七〇年の〈日本発見〉』『〈日本的なもの〉とは何か ジャポニスムからクールジャパンへ』等。