〈ルリユール叢書〉第32回配本 (44冊目)
エレナ・ポニアトウスカ 鋤柄史子=訳
乾杯、神さま Hasta no verte Jesús mío 定価:本体価格4,800円+税
予定ページ数:544頁
四六変形・ソフト上製
ISBN978-4-86488-278-1 C0397
刊行予定:2023年7月下旬
そうさ、今はここでただ、朝の五時になるのを待っている。もう眠ることすらない。子ども時分からのあらゆる出来事がひたすら頭によみがえるだけ。あの時代のこと、寄る辺なく、草鞋なく、目隠しの鬼ごっこに戯れるかのように革命に手を出して、殴打を浴びて生きたころのことが。この胸糞悪い人生に足腰がもうぐったりだ。メキシコ革命を兵士として生きた後、労働者として、変動するメキシコシティの地を這って生きるヘスサという女性は何者か――ジャーナリストの経験を活かし、一個人の証言を多声的な〈女性〉の物語へと昇華させた、セルバンテス賞受賞の女性作家によるルポルタージュ文学の傑作長編。本邦初訳。エレナ・ポニアトウスカの本を読むと、なぜ彼女がわたしのヒーローなのか、どうしてわたしは筆を執るのか、どんな作家になりたいのか、といった問いへの答えが鮮明になる。エレナは卓越した作家であるばかりでなく、並外れた人間性をもっている。その人間性によってこそ、エレナの文章は空高く羽ばたくのだ。
──サンドラ・シスネロス
エレナ・ポニアトウスカの名を挙げてセルバンテス賞は、噂好きの者から悲憤慷慨する者、自暴自棄になった者、それから告発者まで、エレナになにかを伝えたことのある幾千の者たちに栄誉を授けた。他者の率直な声を書き留めた作品をこれほど広範囲にわたって著した作家は他にはいない。
──フアン・ヴィジョーロ
エレナは時代の先をいった作家だ。クリエイティブ・ノンフィクションがアメリカで生まれるずっと以前から、すでにラテン・アメリカでそれを始めていた。
──クリスティーナ・リベラ・ガルサ
ポニアトウスカの世界は、ユーモアと空想がもつ突飛な拍子で律が成り立っており、そこでは、ごく日常の現実を不気味で不意をつく事柄と隔てるさかい目がぼやけて不確かなものになる。ジャーナリストとしての書き物と作家としての創作作品いずれにおいても、ポニアトウスカが綴る言葉はスペイン語の古典的文芸よりも口承の語りに近い。
──オクタビオ・パス
【著者略歴
】エレナ・ポニアトウスカ(Elena Poniatowska 1932– )
ジャーナリスト、小説家。パリに生まれ、1942年にメキシコへ移住。1978年、女性で初めて全国ジャーナリズム賞を受賞。本書とあわせて、『トラテロルコの夜』『ティニシマ』『レオノーラ』など、数々の作品が文学賞に輝く。文学創作に証言を織り合わせながら、強靱でしなやかな独自の文体を確立してきた。その功績によって2013年にセルバンテス賞を受賞。
【訳者紹介
】鋤柄史子(すきから・ふみこ)
大阪府生まれ。メキシコ、チアパス自治大学先住民研究所にて修士課程修了、客員研究生を経て、2020年秋よりスペイン、バルセロナ大学社会人類学博士後期課程に在籍。現在の研究テーマはチアパスにおける文芸と翻訳の人類学。