

〈ルリユール叢書〉第40回配本 (58冊目)
アン・クイン 西野方子=訳スリー Three 予価:本体価格3,200円+税
予定ページ数:336頁
四六変形・ソフト上製
ISBN978-4-86488-307-8 C0397
刊行予定:2024年10月下旬
でもここで私は踏み込んで可能であるなら想像のまさに極限に至るまで浸ってみたい。別の水準を、更なる次元を獲得するんだ、できれば私と一緒に二人も連れていって。でも感情はどれくらい遠くまで広がり得るものなんだろう?
B・S・ジョンソンらと並び、1960年代イギリスで実験小説を発表し、女性であることの困難にも向き合った前衛作家アン・クイン。行方不明の少女が遺したテープと日記帳が夫婦二人の日常を軋ませ、次第に蝕んでいく――作者の自伝的要素も組み込まれた奇妙な長編小説。本邦初訳。
。アン・クインはイギリス文学にはめったにいないタイプの作家だった。過激なまでに実験的であり、かつ労働者階級出身で、そして女性なのだ。
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ジェニファー・ホジソン『スリー』を読めば、クインの生み出した声が今でも強烈な響きを宿し、私たちが今この時代にフィクションに対して見出す様々な可能性を先取りしていることがわかる。彼女の文体に対する実験は新鮮さと奇抜さを失っておらず、その実験性は衝撃的でとても貴重なものだ。
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ブライアン・エヴンソンクインの作品が一貫して示しているのは、女性として生きることが、ばらばらな断片―切り離さればらばらの欠片になってしまったような、奇妙な角度から見た鏡にちらっと映るなんだかよくわからない姿にされてしまったような断片―になることに似ているということだろう。
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ジュリア・ジョーダン【著者略歴】アン・クイン(Ann Quin 1936–73)
1936年、イングランドのブライトンで生まれる。1960年代前半から70年代初頭にかけて実験的な小説作品を発表したイギリスの女性作家。B・S・ジョンソンをはじめとする同時代の実験小説家たちと交流をもち、リアリズムを重視する時流に逆らい実験小説を執筆。四作の長編小説(『バーグ』、『スリー』、『パッセジーズ』、『トリップティクス』)と、複数の短編小説を発表した。作品の復刊とともに、近年イギリスを中心に注目を集め、再評価が進んでいる。
【訳者紹介】西野方子(にしの・のりこ)
静岡県生まれ。イーストアングリア大学大学院修士課程修了、東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻にて博士号(学術)取得。現在、東京理科大学講師。専門は二十世紀以降のイギリスの実験文学。