〈ルリユール叢書〉第42回配本 (61冊目)
マックス・ブロート 中村寿=訳
ユダヤ人の女たち 予価:本体価格4,200円+税
予定ページ数:424頁
四六変形・ソフト上製
ISBN978-4-86488-313-9 C0397
刊行予定:2024年12月下旬
彼女の地上的な実存は彼にとって、どこまでも取るに足らぬものでしかなくなっていた。どこかもっと高い区域、もっと純粋な区域で、彼女の心が彼の心と、透明なガラス玉のように、空間を漂っていた。この無限に柔らかな、意義深い、雲を越える永遠のたゆたい、きっとそれがほんらいの生であり、より現実の生であるはずだった。
カフカ没100年記念出版 文学の徒にして親友だったフランツ・カフカの遺言に逆らい、遺稿を守って亡命、カフカ全集を編纂して世界文学に貢献した作家・翻訳家マックス・ブロート――1910年代チェコのギムナジウムに通うドイツ系ユダヤ人青年の恋愛と蹉跌を赤裸に描く、ブロートの自伝的小説。本邦初訳。
現在われわれは、西欧の小説がユダヤ人のなんらかのグループを扱おうとし始めるや否や、たちまちユダヤ人問題の解決策までもその小説の筋以下か以上に求めたり見いだしたりする癖がある、と言っても過言ではない。『ユダヤ人の女たち』のなかでは、しかしそういう解決は示されていない。いや、想像されてさえいない。というのは、こういう問題に熱心にとり組んでいる例の人たちが、この小説においては中心から遠く離れたところに立っているからである。――
フランツ・カフカわれわれが日頃関わっている人々をその雰囲気もろとも物語の形式に落としこむこと、それがブロートの並外れた芸術にほかならない。――
フーゴ・ヘルマンブロートは五十年以上前におののきながら、せまりつつある人間の脱人間化を予見していた、ジョージ・オーウェルよりもずっと先に。――
ローベルト・ヴェルチュ
【著者略歴】マックス・ブロート(Max Brod 1884–1968)
チェコスロヴァキア・イスラエルの文筆・音楽評論・作曲家。プラハ大学ドイツ語部門にて法学博士の学位を得たのち、郵政官吏を経て、作家・評論家生活に入る。1939年にパレスチナ移住。著書多数。最もよく知られている業績は、カフカの友人兼助言者、遺稿編集・紹介者、伝記作家としての仕事である。小説に『チェコ人の女中』、『アーノルト・ベーア――あるユダヤ人の運命』、『ティコ・ブラーエの神への道』、『ユダヤ人の王ロイベニ』 などがある。
【訳者紹介】中村寿(なかむら・ひさし)
1977年、静岡県浜松市生まれ。秋田大学教育文化学部講師。静岡大学人文学部卒、静岡大学人文社会科学研究科修士課程修了、北海道大学文学研究科博士後期課程単位修得退学、博士 (文学) 。専門はドイツ文学・ユダヤ人研究。