
〈ルリユール叢書〉第46回配本 (66冊目)
ピエール・エルバール 森井良=訳
アルキュオネ 力線 予価:本体価格3,400円+税
予定ページ数:312頁
四六変形・ソフト上製
ISBN978-4-86488-323-8 C0397
刊行予定:2025年5月下旬
「近々、戦争があるって噂だぞ」リノが告げた。
ファビヤンは僕を見て微笑んだ。腕をまっすぐ頭上に持ちあげ、流れに身をまかせた。両手で水中にある僕のくるぶしを摑み、やがて腿まで摑んできたかと思うと、とつぜん浮きあがった。
対独抵抗運動に挺身した「闘士」の作家ピエール・エルバール――無人島で営まれる少年同士の同性愛的な友情を活写するBL小説『アルキュオネ』、スターリニズム下の若き反抗者たちの同性愛と政治参加を巧みに描いた、エルバールの私小説的作品『力線』の2篇を収録。本邦初訳。
彼は熱狂的な存在であり、地獄の魅力をもっている。──アンドレ・ジッド
何を読んだかって? ピエール・エルバールの『アルキュオネ』だ。そこではすべてがえもいわれぬ美点を有しているように思われる。言葉、一文一文がその後に残す音の響き、作者のこのうえなく控えめな書きぶり、さりながら言いたいことはすべて言っている。愛と怒りの書である本作は、決して押しつけがましくない手によって書かれているのだ。──ジュリヤン・グリーン
エルバールの最良の部分! 〔『力線』には〕彼がまったきかたちで、私の愛する姿のままに存在している。〔…〕並外れて透明で光り輝く、鏡のような著作。──ロジェ・マルタン・デュ・ガール
ピエール・エルバールの文体とは? ジッドを思わせるような、揺らめくほどの透徹さ、そこには媚びも気どりもない。無駄を排した明快さ、そこから官能を秘めた魅力が立ち昇ってくる。──ドミニク・フェルナンデス
【著者略歴】ピエール・エルバール(Pierre Herbart 1903–74)
1903年、北仏ダンケルク生まれ。造船業の名家に育つも、5歳で父が出奔、孤独な少年期を過ごす。18歳で上京し、ジャン・コクトーと交流。アンドレ・ジッドの友人となり、以後秘書としても仕える。反植民地主義を奉じて共産党に入党。ソヴィエトに拠点を移し、「国際文学」編集長を務める。第二次大戦中は対独抵抗運動に参加し、レンヌ解放に尽力。戦後はジャーナリストとして活躍の場を広げ、自身の政治活動を総括した後、優れた私小説的作品を残す。代表作に『放浪者』『アルキュオネ』『黄金時代』『力線』など。
【訳者紹介】森井良(もりい・りょう)
1984年、千葉県生まれ。パリ第七大学博士課程修了(博士)。獨協大学フランス語学科准教授。訳書にエリック・マルティ『サドと二十世紀』(水声社)、ロジェ・ペールフィット他『特別な友情――フランスBL小説セレクション』(編纂・共訳、新潮社)、ジョルジュ・シムノン『運河の家 人殺し』(幻戯書房)、小説に「ミックスルーム」(第一一九回文學界新人賞佳作)がある。