

〈ルリユール叢書〉第50回配本 (71冊目)
ヘンリック・イプセン アンネ・ランデ・ペータス/長島確=訳
イプセン戯曲選 海の夫人/ヘッダ・ガーブレル 予価:本体価格4,200円+税
予定ページ数:392頁
四六変形・ソフト上製
ISBN978-4-86488-331-3 C0397
刊行予定:2025年9月下旬
その喜びっていうのは──私たちの夏の明るい日々の喜びと同じなの。やがて訪れる暗い季節の予感を抱えているのよ。この予感がね、私達人間の喜びに影を落としているの、──風に流れる雲がフィヨルドに影を落とすようにね。
海に憧れながら元の生活から離れぬエレーダを描く『海の夫人』。他人との関係を疎むヘッダの退屈な生を描く『ヘッダ・ガーブレル』。「自己亡命」の終焉間際に書かれた、祖国への愛憎と望郷の狭間のイプセンの葛藤が〈居場所探し〉として結晶化した、リアリズム期の傑作戯曲2篇。エリーダという人物は、イプセンの空想の中で生まれたのではなく、ほとんどの作家が満足せざるを得ないブルジョア的思想より遥かに深い心理的知識によって生まれたのだ。――
エーリック・スクラム 他者や外的な配慮に邪魔されず自由に選択することが許された瞬間、エリーダは「自由」と「責任」という概念が切り離せないものであることに気づく。彼女の成長はそこで完了し、充実感、温かさ、創造力に満ちた真なる人生が始まるのである。――
ウルバン・フォン・フェイリッツェン
イプセンは、これほどまでに自分の真なる主題に接近したことはない。これほど創作し、これほど問題化をしなかったことはない。 『ヘッダ・ガーブレル』において、イプセンはかつてないほど純粋な芸術家として現れた。――
オットー・ブラームヘッダは、死と破壊を周囲にもたらす悲劇的な人物である。彼女の本性の最も高貴なものが殺され、破壊されてしまっているからである。彼女はそれでも生きていけるために必要な諦観の強さ、または自己放棄の弱さを持ち合わせていない。――
ヘンリック・イェーゲル『ヘッダ・ガーブレル』はイプセンのこれまでのどの戯曲よりも謎めいている。――
ギーオウ・ブランデス【著者略歴】ヘンリック・イプセン(Henrik Ibsen 1828-1906)
ノルウェーの詩人・劇作家。ノルウェー南部の町シェーエンで生まれる。「近代劇の父」と呼ばれるイプセンの戯曲作品は、シェイクスピアに次いで世界で二番目に多く上演され、明治期日本の近代演劇の礎石となるほど多大な影響をもたらした。初期作品はバイキング時代を中心とした歴史劇が主だったが、1877年の『社会の柱』以降、代表作『人形の家』をはじめ現代を主眼としたリアリズム劇の執筆に重きを置くようになった。人間の生き方、社会問題を見つめる鋭敏な観察眼に定評がある。
【訳者略歴】アンネ・ランデ・ペータス(Anne Lande Peters)
1967年、神戸生まれ。演劇研究家・翻訳家。宣教師の親とともに幼い頃から日本とノルウェーを往来して育つ。オスロ大学と早稲田大学で演劇学を学び、落語をテーマに修士論文を執筆。三島由紀夫『近代能楽集』、よしもとばなな『みずうみ』のノルウェー語訳や、ヨン・フォッセの演劇、イプセンの演劇(新国立劇場)などの邦訳を手がける。
長島確(ながしま・かく)
1969年、東京生まれ。ドラマトゥルク・翻訳家。翻訳劇を含むさまざまな上演現場に関わり、国内外の演出家や俳優、劇作家との協働作業の経験多数。訳書にベケット『いざ最悪の方へ』(書肆山田)、『新訳ベケット戯曲全集』(監修・共訳、白水社)など。