イワン・コトリャレウシキー 上村正之=訳
エネイーダ予価:本体価格6,800円+税
予定ページ数:632頁
四六変形・ソフト上製
ISBN978-4-86488-350-4 C0398
刊行予定:2026年7月下旬
ウェルギリウスよ栄え給え、草葉の陰で、
なかなか賢い御仁ではあったが、
あの世からの口出しは御免被る、
彼は太古の昔の人。
18世紀末、ウクライナの詩人コトリャレウシキーが、古代の英雄をコサックに見立てた『アエネーイス』のパロディにして、帝政ロシア支配下で失われゆく民衆の自由な世界と風俗を笑劇風に活写した叙事詩『エネイーダ』――近代ウクライナ文学の嚆矢たる記念碑的作品が本邦初訳で登場。これまでに書かれた『アエネーイス』や、イアソンや、プロセルピナを裏返した作品の数々のうち、ただ一つ生き残ったのはウクライナ風のパロディ、コトリャレウシキーの『エネイーダ』だけである。──
オレスト・ソモフまさに彼〔コトリャレウシキー〕こそエネイがごとき、ウクライナの偉大な過去の生き残りである。自由な生の、最後の火花が立ち消えて、灰に覆われゆくさまの、最後の目撃者、その一人だった。そしてエネイがトロイアの焼け跡から、民族の最後の聖物を運び出し、新たな土地、新たな祖国を求め、世界へと旅立ったように、彼もまたウクライナを襲う大火から、民族の最大の聖物――言葉を救った。──
イワン・フランココトリャレウシキーは、同郷人で遠い隣人でもあるゴーゴリと同じく、笑った。彼は笑った――かつてのザポロージェ・コサックのように、ポルタワの独立農家の主人のように、また時にはルネサンスのユーモリストのように、あるいはまさに涙を通して笑ったのである。しかし彼の笑いはウクライナ全土に、そしてウクライナの外にも響き渡り、今もなお響き続けている。それは彼の創造的な笑いであって、空虚な笑いではない。──
ボフダン・レプキー【著者略歴】イワン・コトリャレウシキー(Ivan Kotlyarevsky 1769–1838)
ウクライナの詩人、劇作家。1769年、ウクライナのポルタワ地方にて小官吏の家に生まれる。当地神学校で、ギリシア・ローマ古典文学、西欧文学、ロシア文学に親しむ。卒業後、文官、家庭教師、軍人の職に就くなか『エネイーダ』を執筆。1798年、作者無許可で『エネイーダ』第一~三部が出版される。1809年、作者自ら校閲、第四部を加えた『エネイーダ』を出版。1818年、ポルタヴァ自由劇場の支配人を務め、自作を上演、ウクライナ演劇史においても足跡を残した。歿後の1842年、全六部構成の完成版『エネイーダ』が出版された。
【訳者略歴】上村正之(うえむら・まさゆき)
1992年、青森県生まれ。北海道大学大学院文学院博士後期課程修了。博士(学術)。専門はロシア文学・ウクライナ文学。論文に、「『タラス・ブーリバ』におけるゴーゴリ的グロテスク」(『ロシア語ロシア文学研究』第53号)、「ベリンスキーのウクライナ文学観――ロシア国民文学の探求の裏面」(『ロシア・東欧研究』第52号、近著に『ウクライナ文化の挑戦』(共著、幻戯書房)など。